企業会計原則では、
「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。 」
と示しています。
・収入と収益
・支出と費用
は異なります。
「発生主義」「現金主義」「実現主義」は、収益や費用を計上するルールです。
会社の場合、収入は「実現主義」、費用は「発生主義」での会計が求められます。
一定の所得以下の青色申告者は、「現金主義」での申告もできます。
個人事業者と副業の場合はどうでしょうか?
まずは、この3つのルールの違いを説明していきます。
そして、「個人事業主と副業」の確定申告について会計処理の調べ方を伝えます
(結論はカンタンです)。
「個人事業主と副業」の会計ルールを早く知りたい方は下の画像をクリックしてください。
企業会計原則での収益

企業会計原則(会社の会計ルール)では、
「収益と費用は①発生した期間に計上することが要請されています。ただし、収益については、②未実現のものは計上してはならない。」※下線は筆者記。
下線①が発生主義を要請していて、
下線②が収益について実現主義を要請しています。
つまり、収益については実現主義による会計処理を要請しています。
また、
「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」
とあり、費用については発生主義による会計処理を要請しています。
これらのルールは「適正な期間損益計算」ができるように設計されています。
会計ルールの変遷
現金主義→発生主義、実現主義と、
会計が時代の要請を受けて変遷してきました。
利益の分配可能性の観点より、それぞれは異なります。
会計のルール① 現金主義とは?

現金主義とは、現金の収入や支出がされた時点で、費用及び収益を認識するルールです。
貸付金、借入金などは、収益及び費用にしません。
現金主義のメリット
すべての収益及び費用に現金の裏付けがあり、
分配可能額が正確に把握できます。
分配可能額は、会社の場合は配当、個人の場合は税金を支払う能力をあらわします。
現金主義のデメリット
「買掛金や売掛金」「設備投資」を現金主義のルールで会計処理すると
適正な期間損益計算ができなくなります。
そのため、企業会計原則では、現金主義は採用されていません。
所得税法においては、一定の規模以下の青色申告者が届出をすると現金主義での会計が可能になります。
現金主義を受ける要件の詳細は、後述しています。
会計のルール② 発生主義とは?

発生主義とは経済的事実の発生により収益や費用を認識します。
金銭のやり取りの有無は関係しません。
発生主義のメリット
設備投資をした場合、その会計期間が終わった次の期間も売上げに貢献してくれるはずです。設備投資の支出は、現金の支出があったときではなく、その使用可能期間(耐用年数)に応じ期間按分して費用化します。
費用化しきれていない金額は、貸借対照表に資産として計上し管理します。
「税法での耐用年数」は資産の種類、構造、利用方法ごとに国税庁が示しています。
発生主義のデメリット
発生主義では、その収益や費用に現金の裏付けがありません。
工場で製品を製造すると、売らずに収益が上がります。
分配可能額の測定に問題があります。
発生主義のルールで計算された利益(収益ー費用)は企業活動の業績を正確にあらわします。
会計のルール③ 実現主義とは?

実現主義では、収益を実現の時点で認識します。
実現の時点とは、「商品を販売した日」や「サービスを提供した日」などです。
実現主義で認識した収益は、現金やその同等物(売掛金など)の裏付けがありますので、
分配可能額を正確に把握できます。
連結会計や支店独立会計での内部利益の控除は未実現利益を控除しています。
会計ルール 小まとめ
現金主義 | 発生主義 | 実現主義 | |
---|---|---|---|
分配可能額の測定 | |||
業績の指標性 |
青色申告で求められる会計

会計ルールと所得税の関係を勘違いしている方も多いです。
会計原則は会社のルールです。
所得税法の計算の仕方は所得税法により定められています。
「現金主義」「発生主義」「実現主義」は、
極論忘れてしまっても大丈夫です。
所得税法の認識ルールは、「権利確定主義」と解されています(弘文堂「租税法 第二十三版」310頁 著:金子宏 東京大学名誉教授)。
所得税法での会計ルール

所得税法では、収入金額は「収入をすべき金額」とするとされ、
このことから現金主義を否定しています(もし収入金額と書かれていれば、現金主義を意味します)。
収入の認識ルールの具体例は次のとおりです。
36-5 不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、別段の定めのある場合を除き、それぞれ次に掲げる日によるものとする。
(1) 契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日(請求があったときに支払うべきものとされているものについては、その請求の日)
(2) 賃貸借契約の存否の係争等(未払賃貸料の請求に関する係争を除く。)に係る判決、和解等により不動産の所有者等が受けることとなった既往の期間に対応する賃貸料相当額(賃貸料相当額として供託されていたもののほか、供託されていなかったもの及び遅延利息その他の損害賠償金を含む。)については、その判決、和解等のあった日。ただし、賃貸料の額に関する係争の場合において、賃貸料の弁済のため供託された金額については、(1)に掲げる日
(注)
1 当該賃貸料相当額の計算の基礎とされた期間が3年以上である場合には、当該賃貸料相当額に係る所得は、臨時所得に該当する(2-37参照)。
2 業務を営む賃借人が賃借料の弁済のため供託した金額は、当該賃借料に係る(1)に掲げる日の属する年分の当該業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することに留意する。
(頭金、権利金等の収入すべき時期)
36-6 不動産等の貸付け(貸付契約の更新及び地上権等の設定その他他人に不動産等を使用させる行為を含む。以下36-7までにおいて同じ。)をしたことに伴い一時に収受する頭金、権利金、名義書換料、更新料等に係る不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、当該貸付けに係る契約に伴い当該貸付けに係る資産の引渡しを要するものについては当該引渡しのあった日、引渡しを要しないものについては当該貸付けに係る契約の効力発生の日によるものとする。ただし、引渡しを要するものについて契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。
(返還を要しなくなった敷金等の収入すべき時期)
36-7 不動産等の貸付けをしたことに伴い敷金、保証金等の名目により収受する金銭等(以下この項において「敷金等」という。)の額のうち、次に掲げる金額は、それぞれ次に掲げる日の属する年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入するものとする。
(1) 敷金等のうちに不動産等の貸付期間の経過に関係なく返還を要しないこととなっている部分の金額がある場合における当該返還を要しないこととなっている部分の金額 36-6に定める日
(2) 敷金等のうちに不動産等の貸付期間の経過に応じて返還を要しないこととなる部分の金額がある場合における当該返還を要しないこととなる部分の金額 当該貸付けに係る契約に定められたところにより当該返還を要しないこととなった日
(3) 敷金等のうちに不動産等の貸付期間が終了しなければ返還を要しないことが確定しない部分の金額がある場合において、その終了により返還を要しないことが確定した金額 当該不動産等の貸付けが終了した日
36-8 事業所得の総収入金額の収入すべき時期は、別段の定めがある場合を除き、次の収入金額については、それぞれ次に掲げる日によるものとする。(昭49直所2-23改正)
(1) 棚卸資産の販売(試用販売及び委託販売を除く。)による収入金額については、その引渡しがあった日
(2) 棚卸資産の試用販売による収入金額については、相手方が購入の意思を表示した日。ただし、積送又は配置した棚卸資産について、相手方が一定期間内に返送又は拒絶の意思を表示しない限り特約又は慣習によりその販売が確定することとなっている場合には、その期間の満了の日
(3) 棚卸資産の委託販売による収入金額については、受託者がその委託品を販売した日。ただし、当該委託品についての売上計算書が毎日又は1月を超えない一定期間ごとに送付されている場合において、継続して当該売上計算書が到達した日の属する年分の収入金額としているときは、当該売上計算書の到達の日
(4) 請負による収入金額については、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供を完了した日。ただし、一の契約により多量に請け負った同種の建設工事等についてその引渡量に従い工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合又は1個の建設工事等についてその完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合には、その引き渡した部分に係る収入金額については、その特約又は慣習により相手方に引き渡した日
(5) 人的役務の提供(請負を除く。)による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日。ただし、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合におけるその期間の経過又は役務の提供の程度等に対応する報酬については、その特約又は慣習によりその収入すべき事由が生じた日
(6) 資産(金銭を除く。)の貸付けによる賃貸料でその年に対応するものに係る収入金額については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)
(7) 金銭の貸付けによる利息又は手形の割引料でその年に対応するものに係る収入金額については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)。ただし、その者が継続して、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる日により収入金額に計上している場合には、それぞれ次に掲げる日
イ 利息を天引きして貸し付けたものに係る利息 その契約により定められている貸付元本の返済日
ロ その他の利息 その貸付けに係る契約の内容に応じ、36-5の(1)に掲げる日
ハ 手形の割引料 その手形の満期日(当該満期日前に当該手形を譲渡した場合には、当該譲渡の日)
棚卸資産の引渡しの日の判定
36-8の2 36-8の(1)の場合において、棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば、出荷した日、船積みをした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、その者が継続して収入金額に計上することとしている日によるものとする。(昭55直所3-19、直法6-8追加、平30課個2-19、課審5-2改正)
※管理者もチェックはしていますが、念のため、ボックス内はリンク先などで最新の情報をご確認ください。
ー 参考リンク ー
「個人事業主や副業」の経費のルール
経費は発生主義ですが、「家事関連費」など個人ならではのポイントもあります。
他の記事で詳しく説明させていただきます。
ー 参考リンク ー
青色申告で求められる会計
青色申告では、正規の簿記の原則による記帳が求められます。
正規の簿記の原則とは?
正規の簿記とは、損益計算書と貸借対照表が導き出せる組織的な簿記の方式を言います。
一般的には複式簿記による会計帳簿が求められています。
複式簿記とは、2つの科目で取引を記録することで、2つの面を表す会計方法です。
正規の簿記=複式簿記
正規の簿記≠発生主義、実現主義
ー 参考リンク ー
実際の「個人事業主と副業」の方の仕訳
見越(みこし)と繰延(くりのべ)
見越と繰延は会計の用語ですが、
所得税法でも活きています。
実際の仕訳を見てみましょう。
費用の見越
今年利用した電気代を来年1月に支払った場合。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|---|
期末 | 水道光熱費 | XX | 未払費用 | XX |
翌期首 | 未払費用 | XX | 現金 | XX |
電気代は今年の経費になります。
費用の繰延
税理士の報酬を1年分前払いした場合。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|---|
支払日 | 支払報酬 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
期末 | 前払費用 | XX | 支払報酬 | XX |
翌期首 | 支払報酬 | XX | 前払費用 | XX |
来年分は来年の経費になります。
按分方法は月数や日数で按分します。
不動産収入の仕訳例

10月分を9月25日に受け取る賃貸契約での不動産収入。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|---|
9月25日 | 普通預金 | 10,000 | 不動産収入 | 10,000 |
会計ルールで考えると混乱しますので、所得税法で確認します。
未入金の場合は、「未収家賃」を資産計上します。
「現金主義」による仕訳例

パソコンを現金で買った場合の仕訳。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
固定資産 | 120,000 | 現金 | 120,000 |
減価償却費 | XX | 固定資産 | XX |
現金主義でも所得税法では、資産計上し、減価償却していきます。
期中は現金主義でも税額が合えばOKです。

「個人事業主と副業」の課税期間は、暦年(1月1日〜12月31日)です。
ある経費を9月25日に計上しても、10月1日に計上しても、税金の計算には影響ありません。
しかし、12月25日に計上すべき経費を翌年の1月1日に計上すると、税金の計算に影響があります。
おすすめはしませんが、見越や繰延などの処理を期末だけ頑張り、
税金を正確に計算している場合は、税務署は文句を言いにくいです。
管理会計、金融機関の目など問題になる恐れはあります。
参考:現金主義による所得計算の特例
青色申告者が次の要件を満たすと、「現金主義」で税額計算できます。
ただし、この場合は青色申告65万円控除が受けられません。10万円控除になります。
(・青色申告者であること。)
・小規模事業者※1であること。
・「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を適用を受けようとする年の3月15日※2までに提出していること。
※1 小規模事業者とは、その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額(事業専従者給与(控除)の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下である方のことです。
※2 その年の1月16日以後に新たに開業した場合には、開業した日から2ヶ月以内。
まとめ

・収益は「実現主義」、費用は「発生主義」は会社のルール。
・「個人事業主と副業」の会計は、所得税法のルールで計算する。
・「現金主義」は所得税法で一部認められている。
最後に、個人事業主の方が棚卸資産を自家消費した場合の仕訳を載せます。
時価1,000円の棚卸資産を自分で消費した場合。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
事業主貸 | 700 | 売上 | 655 |
仮受消費税 | 45 |
消費税率は10%です。
所得税法では、時価の70%が売上とみなされ、
消費税法では、時価の50%が売上とみなされます。
会計基準で考えると、、、難しいですね。
私見ですが、一般的な取引を会計基準で判断するには、
ときとして大学の教授レベルの知識が必要です。